170215
離れてはじめて、失ったものの大きさに気が付く。温かい家と家族の話し声と0時の穏やかな就寝、七時起きの生活リズム。それらと引き換えに酒飲みで駄目で寒い家に住んでいて汚くて臭くてめちゃくちゃ愛しい町と仲間に2秒で会えるということを、失ったのだ。
1993年生まれ。江戸川区出身。写真家、仮面劇俳優、インプロバイザーとして活動中。人物ポートレート、人物スナップを得意とする。
離れてはじめて、失ったものの大きさに気が付く。温かい家と家族の話し声と0時の穏やかな就寝、七時起きの生活リズム。それらと引き換えに酒飲みで駄目で寒い家に住んでいて汚くて臭くてめちゃくちゃ愛しい町と仲間に2秒で会えるということを、失ったのだ。
先日電車で。酔ったじじいが大声で話していた。「ぼくなんかはね、ハプバーにもカップル喫茶にもいったけども、ハプバーなんてのは駄目だね、ブスででかいのばかりで、だけどマナーだからそんなんともやらなきゃいけないんだよ」へええ、と一緒にいた後輩の気のない返事。「その点カップル喫茶はいいね、カップルじゃなきゃ入れないから、みんな彼氏が出来るくらいには綺麗な子ばかりで」そんなファンタジーみたいなものが現存するのかと、びっくりした。「先輩は奥さんと入るんですか」「まさか、一緒にいってくれる綺麗な子を買うんだよ」やっぱりファンタジーだったのだ。
春めいてきた。
ある朝目覚めたら虫になっていたらいやだなと思う。例えばせめて昨日虫を踏み殺しただとか、誰かを虫けら呼ばわりしたとか、そういうことがあるならまだ.道理で致し方ない、と納得できる可能性がある。
とても好きだったホシノという人がいた。ホシノには好きな人がいた「あのねえ僕恋をしてるんだ、スミレちゃんに」と何度か泊まったホシノのベッドの上で文学的に告白されたのだった。
ある晩、22時をまわるころ、ホシノにサイゼリアに呼び出された。行ってみると、ホシノはイカスミパスタのダブルをもしゃもしゃと食べていた。今晩は確かスミレちゃんと晩御飯デートをすると言っていた。「どうしたの?」と聞いてみると「スミレちゃんとデートだったんだけどね、ドキドキして胸がいっぱいで、三口しか食べられなかったんだ」ホシノはわたしのまえでイカスミパスタのダブルを頬張っていた。
道理のわからないことをわたしたちは不条理と呼ぶけれど、その最たるものだと思った。朝目覚めて虫になっていたような気持ちだった。
ザムザが理由もなく虫になっていたように、ホシノはわたしのまえでご飯を食べた。そこから始まってしまった。
だから誰かを好きになったとき、心がけている。わたしは虫になってしまったけれど、その理由はどこにもないんだと。そうするようになってから、少しだけ、楽になれた気がする。
よくねる、よくたべる、うんどうする。
しばらくお酒を飲んでいない。夜11時には眠くなる。わたしの夜は12時から始まっていたはずなのに。すっかり起きている方法がわからなくなってしまった。
健康診断なるものを5年ぶりにうけた。ついつい、前日だけ食生活に気を付けてしまった。