171021
「りゅうちゃんが死んだの」たったそれだけのラインが母のもとに届いた。母が「りゅうちゃんて誰なの、なんて返していいの」と困っていた。母はりゅうちゃんの名前を聞いても、それが、誰なのかわからなかった。わたしはりゅうちゃんとさして仲良しじゃなかったけれど、可愛い奴だと思っていたし、ちょうど遠い親戚のように存在を認識できていた。だけど、父はりゅうちゃんのことをとても慕っていて二人は仲良しだった。わたしには、痛みは計り知れず、気持ちを考えることすらできなかった。想像もできなかった。辛いんだろうかとか寂しいんだろうかとか、全然わからなかった。だってりゅうちゃんを喪った気持ちは父だけのものだったから。りゅうちゃんは、父方の叔母の家の猫だった。雑巾とモップのあいのこのような灰色の猫で、いつも埃まみれだった。
中学生の時、わたしは、ポチのことをすごく愛していた。もしも死んだら食べようと思うくらいには好きだった。だけどポチは、カナダから帰ってきたらもうどこにもいなくなっていた。わたしのいないあいだに太郎に殺されたらしいと後で聞いて知って、ポチの死は人から聞いた話になってしまった。ポチは金魚だった。すごく哀しくて、どうしたらよいのかわからなかった。現実感がなかった。そうして現実感のないままに、始めからいなかったかのように自分の中で処理することができてしまった。
父はどんな気持ちで連絡をよこしたのかわからなかった。まさか母がりゅうちゃんを認識できていないとも思っていなかっただろう。なんて返していいの、と言われても、わたしにだってわからなかった。
翌日帰って来た父はおみやげに葡萄を買ってきてくれた。