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1993年生まれ。江戸川区出身。写真家、仮面劇俳優、インプロバイザーとして活動中。人物ポートレート、人物スナップを得意とする。

好きだったことは忘れても、その人の考え方やささいな価値観の違い、言葉遣いをいつまでも覚えていたりする。朝の天気予報では連日「9月上旬並みの温かさ」か「11月下旬並みの寒さ」が訴えられ、ちょうどよい月の丈にあった気温にはなかなかならない。10月も半ばにさしかかろうというのに、金沢動物園では蝉がないていた。もう秋も深まってきたというのに。
 その声を聞いて、昔好きだった人が言っていたことを思い出す。蝉の七日は消化試合だ、と。僕たちは蝉が七日しか生きられなくて可哀想だと思っているけれど、蝉は地中でもう10年も過ごしていて、地上の七日は消化試合だと思っているんじゃないか、と。そんな気障なことをさらりと言ってしまえるような人だった。それが気障だとすら自覚していなかったのだと思う。もう蝉の声がすっかり聞こえなくなったころ、同じ口で「君にはかわいそうなことをした」と言われた。その人にとってわたしの「それから」は、消化試合なのだろうか。
 いずれにせよ、例年に比べて長期労働、季節外労働を強いられている蝉のことを、不覚にも可哀想だと思った。いつもより長く生きられてよかったね、とは思えなかった。かわいそうに、もうなかなくても、いいんだよ。