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1993年生まれ。江戸川区出身。写真家、仮面劇俳優、インプロバイザーとして活動中。人物ポートレート、人物スナップを得意とする。

先日飲み会の席で、8年来の友人ノムラに「カエルちゃんは頭が切れるのに、人として何か欠落している、何が欠けているのかうまく言葉にはできないけど」と言われた。ノムラはわたしのそういうちょっとヤバいところを含めて面白がっているというのはよく知っているので面白おかしく聞いていたけれど、帰り道で、うーん、確かにそうだよなあと考えてしまった。

わたしの心は、ずっと前からドーナッツだった。ぽっかり穴があいていて、それを埋めることが出来ないような、よるべのない不安や寂しさに襲われることがしばしばある。適切な病院で診断を受ければ、ある程度名前の付くものだということも知っている。どうしてそうなったのか考えるのをやめてもう5年になる。ある意味で慣れて、ある意味で諦めた。穴は間違いなくある。それは奈落に続くものではなく、ただ向こう側をうつすだけの、ドーナッツの穴みたいなものだった。もうこの穴を掘ったって何も出てこないことも、とっくに知っていた。
普段は困らない。だってドーナッツは穴が開いていて当たり前のものだから。
ただ、たまに、牛乳につけたみたいに、内側からドロドロと溶け出して穴から小麦やら古くなった油を垂れ流すことがある。それは、過度の飲酒であったり攻撃行動であったり、クライミングを含む自傷行為だったりする(クライミング!健康的!)その度に、ああ、わたしの心はもうずっと前からドーナッツだったんだと思い出す。

何度も、何度も、ドーナッツの穴を探す旅に出ていたけれど、ちっとも見つからなかった。ドーナッツの穴の中身なんてどこにも売っていないし、違うものをはめ込んではひどいアレルギー反応を起こすようなことを繰り返していた。飲み会の帰り、久しぶりに穴を探しそうになってしまった、わたしの欠落はなんなのだろう、なにを持っていればよかったのだろう。

先の合宿で「ファストフード・スタニスラフスキー」をやった。「ヒーローになるために」や「嫌な奴になるために」のリストを持って演技をするというものだった。ヒーローリストには「輝く歯で笑う」「トロフィーを自慢する」「胸を開いて喋る」など具体的な行動が書かれている。ずいぶん前に、自分たちで仲間の行動のリストを作ったことを思い出した。その時作ったリストはどこかへ行ってしまったけれど、久しぶりにわたしのリストをつくった。穴を探すのではなくドーナッツのまわりを観察しているような気持だった。

[ファストフードスタニスラフスキー、カエルになるために]
⚫進んで命が危険な選択をする
⚫ドラッグかタバコを吸う
⚫しゃべる前に「やっぱり」と言う
⚫直前に話していたことと逆のことを言う
⚫ゾンビ映画を見て泣く
⚫ささいなこと(ドアを通る順番など)で突然怒り出し「尊厳に関わることだ」と主張する
⚫傷ついている人の味方をする
⚫最悪の展開を自覚的に誘発(相手を怒らせる、出ていかせる、縁を切る、まずい相手とセックスをするなど)
⚫突然テンションがあがり誉める
⚫しゃべる前に大きく息を吸うか、唇を噛む、ややしばらく話し出さない
⚫相手をじっと見つめる
⚫聞こえなかったふりをする
⚫「いまその話はしていない」と言う
⚫意外な場所に寝そべる
●踊り出す
⚫ストレッチをはじめる
⚫こだわっていたことを突然やめる(「もういい」といって話をやめる)
⚫機嫌がよく鼻唄を歌う
⚫筋トレに誘う
⚫好きな映画を聞き、今度見てみますねと言う
⚫人との体の距離が近い
⚫たまに人を持ち上げる
⚫どこかが痛いと言う人をみると処置をする(撫でる、揉む、気功の手当てをする、適切な病院をすすめる)
⚫言いたいことを一度飲み込む
●人の話は笑顔で聞く
⚫少し前の話を蒸し返す
⚫おなかがすいたと何度も言う
⚫筋肉の名前を沢山言う
⚫忌野清志郎の歌を歌って泣く
⚫大人数のときはよく物理的な立ち位置をころころ変える
⚫やりかけていたことを少し考えてやめる。トイレにいく、サラダを取り分ける、など
⚫変なタイミングで掃除をする
●相手が喜ぶものをプレゼントする
●自分が思っていることと逆のことを言って相手をじっと見つめる

最近やっと、欠けている自分を少し面白がれるようになってきた。このリストを、自己嫌悪ではなく「チェーホフに出てきそうな、面白いキャラだ(身の回りにいたら嫌だけど)」と思いながら書くことが出来た。リストのことはわたしにとって殆どが1ヶ月のうち1度はやることだ。つくづく厄介で面倒な奴だ。でも今は、ドーナッツの淵に立って向こう側を覗いている。いつかこの穴は埋まるんだろうか。それとも、これでいいと思える日がくるんだろうか。