Info

1993年生まれ。江戸川区出身。写真家、仮面劇俳優、インプロバイザーとして活動中。人物ポートレート、人物スナップを得意とする。

Posts from the 日記 Category

これが朝7時のテンションか、というくらいのアップミュージックの中、わたしにとっては4軒目の小さな飲み屋にいた。「どうして元気ないの、陰気だわー」とマスターにピコピコハンマーで殴られる。ピコ、ピコと間の抜けた音がして泣きそうになる。優しい町。わたしとまじわらなかった人生の、わたしに傷つかない人たちの、喧噪。ピコ、ピコ。

最近わたしが一番エモーショナルになるのは神田駅のトイレだ。神田駅のトイレは寛大で、繊細でシャイな胃腸も、一ヶ月蓋をしていたやりきれなさや悲しみも、すべて受け止めてくれる。トイレに鞄を忘れても、手元に戻ってきてくれた。

自分の傷は舐めることも薬をぬることもできるのに、誰かを傷つけた記憶は消えない。普段は忘れたふりをしてはいるが一度引かれたトリガーは無傷で戻ってはくれない。あの頃のわたしは、嘘とファンタジーの区別がついておらず、口を開けば夢物語ばかりだった。

ウォーフの屋上で、藤井フミヤの歌を歌いながら煙草を吸っていた。朝日に照らされた黄金町の路地には、煙草の吸殻と、今朝がた誰かが落としていった女の子の名刺、ビニール袋、ビールの缶、それからたぶん昨日あった悲しいこととゲロ。あのゲロを吐いた人は、今日はお休みだったんだろうか。吐くまで飲まずにいられなかったような昨日が、朝日に照らされて、溶けていく。

一度ではない、たぶんこれで3度目くらいになる。「臓物まみれAV」という検索ワードで当サイトにたどり着いている人がいる。まったく意味が分からない。今まで一度も言ったことがない。確かにアロマ企画は好きだったけれど、そのことは割と隠して生きてきたのに。

ひょんなことから、ジュリエットをやることになった。それで、高校生の時駅で見た「どうしてわたしが東大に?」の予備校ポスターを思い出す。どうしてわたしがジュリエットに?
そういう、いわゆるヒロインのようなものに縁がなかったし、もっといえば、脚本芝居と無縁だったわたしが、シェイクスピアをやることになるとは思ってもみなかった。
中学生ではじめてシェイクスピアを読んだとき、これが名著か、なんて愚かで浅はかな登場人物たちなんだろうと思っていた。戯曲の読み方を知らなかったわたしは、あくまで小説としてロミオとジュリエットに出会った。誰にも感情移入できないし、ホラー映画の序盤で死ぬ若者たちみたいだと思った。シェイクスピアを面白がれるようになったのは、ずっとあと、大学に入ってからだった。

シェイクスピアの題材は普遍的なもの、だとかよく言われるけれど、正直あまりピンとこない。わたしには愛を誓いあう、そのことだけですらいまだにピンとこないでいる。今回、京島長屋でロミオとジュリエットをやる。はじめて、ロミオとジュリエットを「よくある話」として捉えることが出来始めている。

もう名前も思い出せない。小学校2年生の時、なぜか仲のよかった女の子がいた。その子の家は学区で言えば反対側にあり、少し遠かった。こっそり何度か家に遊びに行ったが、お母さんとあまりうまくコミュニケーションがとれなかった。もしかした”普通”と何か違うのかな、という様子だったことを覚えている。こっそり遊びに行ったからなのか、家のことがあったからかわからない。その子と遊んでいると母がひどく怒った。わたしたちは、段々遊ばなくなってしまった。階段でうずくまるその子の顔は思い出せても、もう名前も思い出せない。