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1993年生まれ。江戸川区出身。写真家、仮面劇俳優、インプロバイザーとして活動中。人物ポートレート、人物スナップを得意とする。

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歯茎に麻酔をかけられるとは思っていなかった。軽く表面を削るくらいだと思っていた。左下の歯茎、唇にしっかり麻酔をかけられて、4時間とれなかった。うまく笑えない、うがいもできない、なんとなく、唇が腫れ上がっているような気がして気持ちが悪い。自分の顔の境界線が膨張して、鎖骨まで垂れているような気がする。
母の顔の半分が麻痺しはじめて2週間たつ。母は普通に食べていたし、話していたし、変な顔で笑うのにも慣れ始めていた。だけど、慣れていたのはまわりだけだったんだと気付く。わたしは、たった4時間、うがいができず、思うように噛めず、笑えないだけのことで、ものすごく自由を奪われた気がした。こんなことなら虫歯なんて、とすら思った。母の麻痺は麻酔ではない。なおるらしいが、麻痺して虫歯が治るわけでもない。こんなにも不愉快で、かなしい状態のまま、母は2週間も過ごしていたなんて。慣れていたのはまわりだけだったんだ。そう気づいたら、帰り道、涙が止まらなかった。誕生日だったのに。